2015年1月、一般社団法人情報サービス産業協会会長兼株式会社エヌ・ティ・ティ・データシニアアドバイザー・浜口友一様へ、株式会社ユー・エス・イー代表取締役副社長・吉弘京子が「変革できる“IT力”がある企業の“社員力”」をテーマにお話をお伺いしました。そのときの詳しい内容を前編と後編にわけてお届けします。
吉弘
初めてお会いしてから30年ほどになりますね。その間、浜口さんにはとても親切にしていただき、最も深い関係を築けた方の一人だと思っています。困ったときはいつも快く相談にのっていただいてまいりました。
浜口
吉弘さんのお人柄があってのことです。私は、吉弘さんは天性の営業マンだと思っています。例え相手が企業のトップであっても、警戒心をもたれずにスッと懐に入っていける、すごいですよね。また、社外だけでなく、社内一人ひとりに対してもよくみられて良い関係性をつくっていると驚きました。
吉弘
ありがとうございます。NTTデータ様は大切なお客様のひとつですので、私がプロジェクトの現場で直接お話をさせていただくことが多かったからでしょうか。
浜口
当時、一番印象的だったのが、現場で吉弘さんがご自身の会社員の方を「うちの子」と呼んでいた点です。
私はよくマネジメントの講演をさせていただくとき、稲盛さん(京セラ・第二電電(現・KDDI)創業者)のアメーバ経営の話をするんです。稲盛さんは12月になると工場に行って従業員一人ひとりと話して、それぞれの顔と名前を覚えていたらしいんです。社員にとっては、顔や名前を覚えてもらえるのは嬉しいですよね。彼は2000人くらいなら顔と名前を覚えられるそうですが、2000人を超えた時点から、一人では覚えきれないということで、間に代理人を立てて同じように社員教育をしたとのこと。
吉弘さんが社員を「うちの子」といって可愛がっているのと同じように「人心掌握術」って、社長にとってすごく大事なことだと思います。
以前、私がメンタルトレーニングを受けたときの講義をしてくれた牧師さんが「必ず一声がけをする」ということも大切だと言っていました。「今日は元気ないよね?」とかそんな些細なことで良いそうです。
ということは、名前を呼んでから気遣いの一声をかけるとパーフェクトですよね。
吉弘
そうですね。社員のことを気遣うという視点では、私も弊社が700人規模になった今でも続けていることが一つあります。それは、賞与の手渡しです。というのも、銀行振込みですと、社員の家族の方は有り難みをあまり感じないかもしれないと思ったから。年2回の賞与のときは、社員がボーナスを持って帰宅して家族の方から「毎日ご苦労様です。ありがとうございます」と労ってもらえる機会になればと考え、必ず手渡しにすることに拘っています。
また、私からも社員一人ひとりへ手渡すときには「今年はこれだけ頑張ったよね」というようにコミュニケーションがとれますし、社員の嬉しそうな顔をみることができますので、これからもずっと続けていきたいと思っています。
浜口
やっぱり社員に声をかけたり褒めたりすることってすごく大事ですね。
賞与については弊社でもホテルでディナーを楽しんでもらう営業達成賞など色々つくりました。しかし、ダメな方も設けました。失敗したプロジェクトには賞与がマイナスになるわけです。ただ、しっかりと理由を説明すれば理解してくれますし、すごく嬉しかったのは、大抵がおよそ2年以内にリカバーしてくれたことです。例えマイナスだった年が続いたとしても、その翌年からプラスにして、マイナス分を取り返してくれたんですよ。
そのとき私が知ったことは、ずっとフラットの業績を続けているよりも、一度マイナスを経験してからグッとプラスに変えていく方が、社員は育つということでした。
吉弘
おっしゃる通りですね。特に今の若手社員は「自分のやったことを正当に評価してもらいたいけれど、やっていないこともきちんと知ってもらわないとつまらない」という考えをもっている人が多いですね。
ですので、上司や管理職の人たちには「ちゃんとみて評価を本人に伝えるように」と徹底させようとしています。
浜口
経営者や上司が社員一人ひとりをしっかりみていくということを続けていれば、社員も言いたいことを自由に上司に伝えられると思うんです。
吉弘
これまで弊社は、優秀な人が辞めてしまうという悩みもあり、誕生会をするなど、「社員へのおもてなし」というのはずっと続けてきました。そのなかで一番成功したのが、トレーナー制度でした。入社1年目の社員を入社3年目くらいの社員が1年間つきっきりでサポートする制度で、実は、その社員同士の関係が1年どころかずっと続くというのが利点でした。
後輩社員は、悩みの大小問わず、話しづらいことも相談できたり、先輩社員はそれに答えようと色々と勉強できたりといった状況が、それぞれにとってすごく良かったそうで、退職者が減った大きな理由でした。
浜口
まさにトレーナー制度は、先ほどの稲盛さんの話のように代理人をたてて全ての社員に目が行き届くようにするということですよね。吉弘さんが全ての社員をみるということは不可能ですから。
弊社の場合は、社員の自己実現というかスキルアップに重点を置いており、「会社を出て行っても良いから戻ってこいよ」と応援しています。
吉弘
この数年、弊社はピープルソフトやセールスフォースに出会ってから、単なる開発だけでなく、ビジネスを変えていくという会社になってきました。
一番印象的だったのは、ある特殊会社の人事・給与のシステムをピープルソフトで構築したプロジェクトです。御社のキックオフの時だったと思いますが、すごく大変なプロジェクトだったので、そのときの社長であられた浜口様が私に「あなたの会社はピープルソフトの名門老舗でしょ? 我々グループの威信をかけた仕事だからほっといていいの?何とか頼むよ」とおっしゃったんです。すごく緊張感をもって取り組んだことを覚えています。プロジェクトに携わっていた社員に我々はプロジェクトXだ。このプロジェクトを成功させる為に我々はこのプロジェクトに参入していく、頑張ってねと言って、ステーキを振舞って大変なプロジェクトに送り出しましたよ。(笑)
浜口
そんなこと言いましたっけ。「頑張って」というようなことは言ったかもしれませんが…。(笑)
確かに大変なプロジェクトであったのは覚えています。
吉弘
色々と大変なことがありました。お客様のプロジェクトリーダーと弊社との間で混乱があったとき、その方はなかなか会ってくださらなかったし、非常にお叱りを受けたんですが、私は直接手紙を書いて様々な状況を説明しました。すると理解して頂き、それからはすっきりしてプロジェクトが遂行できたんです。そして、プロジェクトが終わったときの祝賀会で酒樽を割る場面があったのですが、USEが功労者だからということで、私に木槌を持たせてくれたんですね。その瞬間は、我が社の社員の頑張りに誇りを思い、大変嬉しかったのを忘れることはありません。
浜口
吉弘さんが手紙を書いたところがとても重要です。
プロジェクトマネージャーの大きな役割っていうのはお客様と喧嘩をしてもいいから、ちゃんといろんな物事を整理すること。良くないタイプのマネージャーは、嫌なことを部下に押し付けがち。すると、お客様も下の人しか出てこないから、全然話がまとまらなくなっていきますよね。
やっぱり揉めたときは、責任者同士が話さなければ意味がありませんよね。プロジェクトの成功がお互いの目標なのですから、そこにたどり着くまでの道のりが少し違ったとしても、まとめていくのがそれぞれのマネージャーの役割で、その覚悟が大切。折衝については、営業がするなどして、プロジェクトマネージャーと役割を分けることができるとベストですね。
吉弘
アジャイル開発は、責任者同士が2、3人で話し合っていくのにはすごく良いと思います。しかし、相手方が20~30人になったとき、半年も前に話がまとまっていた案件をひっくり返されて非常に混乱したことがありました。
浜口
アジャイル開発は、すごく有効だと思いますが、お客様側に理解してもらわないといけないものだとも思っています。
ちゃんと理解した責任のある人に担当していただかないと、今おっしゃったようにひっくり返されるようなことが起こってしまいますよね。ですので、結局はウォーターフォールとアジャイルをくっつけて進めるのが良いとされていますね。画面を作るときはアジャイルで、ボディのところはウォーターフォールで進めるとか。
ただ、アジャイルで進めるにもすぐに対応できる技術者が必要になってきます。すぐにプログラムが組めて尚且つ、お客様と話しているときに頭の中でプログラム構造を考えられる人がいないとできませんよね。その点、USEさんにはいらっしゃいますよね。
吉弘
はい、そうですね。御社の社員の方々も優秀だと思います。
浜口
入社したときはみんな非常に優秀です。ですが、3、4年すると調子がよくなくなっていく場合があります。
あるとき、社員に聞いたら「ちゃんとした面白い仕事をやらせてもらっていない」なんて言うんですよ。ですので、チャンスさえ与えれば成長する、その人に応じた仕事を与えれば絶対に育つ、新入社員に雑用ばかりさせてはいけないと思いました。
また、社員をお客様やパートナー企業様のところへ出向させたら、育って帰ってきたというケースもあります。お客様の仕事を理解し、色々な提案にも活かされています。私自身、1年間NECで仕事をしたときにプログラミングをやらせてもらったりお客様の業務内容が理解できたりしてよかったです。また、客観的な視点もあるわけですのでお客様が思いつかない新しい提案をすることができるようにもなりますよね。
吉弘
そうですね。技術だけの提案ではお客様の満足は得られないので。お客様の課題を理解して最適な提案をすることが大切だと私も思います。
吉弘
つづいて話は変わりますが、弊社に期待することはありますか。
浜口
USEは、人がやりたがらないことをやってやり遂げたり、プロジェクトに入っていただくとムードを前向きに変えてくれたりするパワーがあります。そして、新しい技術やソフトに早くから目をつけて他よりも先んじて勉強して提供するなど、SIのみではなく、USEの独自のソリューションをもって取り組んでいることが強みで、そこに期待しています。
吉弘
ありがとうございます。実は、10年前から九州大学と匂いセンサの共同研究を勧めているんです。産学協同のプロジェクトがいつ開花するかはわかりませんが、新しいビジネスや技術には、どこよりも早めに手がけるよう努めています。
浜口
R&D(Research and Development)部門を持っているのはすばらしいですね。ほかのグループや企業と一緒にすることで新しいことが生まれやすいですよね。
吉弘
そうです。それが弊社の命綱です。弊社は、単なる開発だけで終わらず、保守と運用まで徹底的にやっている社員一人ひとりがいるから、個々のお客様に合わせたシステム業務やサービスの課題を分析する“システム診断”などのオリジナルのサービスもできるようになったと思います。
吉弘
最後に、これから弊社へ、悩みややりたいことを相談したいと考えている方々へメッセージをお願いします。
浜口
経営者にITマインドがない人が多いのですが、そもそもお客様側で何をしたいのかはっきりさせなければいけない点があります。例えば、ただ「利益を上げたい」という漠然としたものではなく、「社員一人ひとりにどれだけ費用がかかっていて、その社員がどれだけ利益を出しているかを出して欲しい」といった具体的なことを、経営者側で決定することが成功への道です。
そのため、営業はコンサルティングして、経営者層が何を求めているかを引き出さねばなりません。
吉弘
はい。経営者が抱えている課題とそれを解決するシステムを導き、ご用意することが弊社として大切だと思っています。
浜口
ITはいろんなことができます。わがままを言っていただいていいと思います。ですので、経営者の人は困っていることややりたいこと、知りたいことをUSEさんへ気軽に相談されることをおすすめします。
吉弘
本日は本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
徳島出身。京都大学工学部卒業。
1967年4月、日本電信電話公社へ入社。
NTTデータ取締役産業システム事業本部第一産業システム事業部長、取締役経営企画部長、常務取締役公共システム事業本部長、
公共システム事業本部第一公共システム事業部長、技術開発本部長、代表取締役副社長などを経て、2003年6月、社長に就任。
現在、一般社団法人情報サービス産業協会会長やNTTデータシニアアドバイザーを務めるなど、幅広くご活躍中。
福岡県久留米市出身。
1970年 学生時代の仲間3名と株式会社ユー・エス・イーを創業。同年、システム研究所を東京に開設
1985年 日本電信電話公社(現NTT)の民営化と共に、業者登録認定を受ける
1995年 NTTデータから「協力企業大賞」を受賞
1997年 一般社団法人日本自動認識システム協会主催「システムインテグレーション優秀賞」受賞
1998年 通産省(現経済産業省) SI企業認定を受ける。
2000年 ピープルソフト(現オラクル)を活用し、ERPで人事制度改革はソフト業界初の試みを行う
2000年 Salesforce.com Inc社を訪問し、翌年にSalesforceを社内導入
2002年 セールスフォース社とパートナー契約を締結。日本国内で多くの顧客にサービスを展開
2005年 ピープルソフト伝道師の「最優秀賞(Excellent Evangelist)」の評価を受ける
“ピープルソフトのクィーン”の愛称で親しまれている
2005年 NTTデータから「協力企業大賞」を受賞
2018年 株式会社ユー・エス・イー 代表取締役会長(現職)
2019年 久留米商工会議所議員、ソフトウェア事業協同組合副理事長、ASPIC執行役員
およびグループ会社2社、IT系ベンチャー企業への投資・支援を行う。
※役職や所属は取材当時のものになります